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なぜポルシェカレラカップは魅力的なカテゴリーとして永く続いているのか?

なぜポルシェカレラカップは魅力的なカテゴリーとして永く続いているのか?

世の中には無数のモータースポーツカテゴリーが存在するが、その中でも単一車種を用いて競われるワンメイクカテゴリーは、主に自動車メーカーが主体となって行われることが多い。しかしワンメイクカテゴリーは代謝が激しく、これまで数多くのシリーズが生まれては消えていった。

その中でもポルシェカレラカップジャパン(PCCJ)は、今年19年目を迎えた非常に息の長いワンメイクカテゴリーとして知られている。流行り廃りのあるモータースポーツ界において、安定してブランド力と参戦台数を保ち続けるカレラカップ。ここにはいったいどのような魅力と戦略があるのだろうか?

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ポルシェにはモータースポーツを継続する責任がある

ポルシェジャパン株式会社モータースポーツマネージャー 松岡直紀氏

「ポルシェにはモータースポーツ活動を行うことに対してのコミットメントがあるのです。」

そう語るのは、今回インタビューを受けてくださったポルシェジャパン株式会社モータースポーツマネージャーの松岡直紀氏だ。ポルシェはスポーツカーメーカーであり、モータースポーツとブランドそのものが直結している。つまりポルシェにとってはモータースポーツを、カレラカップをやめるということはあり得ない。仮にリーマンショックのような世界恐慌が再び訪れたとしても、台数の縮小やレベル感の簡素化などの対応こそあれ、シリーズ停止という選択肢を持ち合わせていないのが、このシリーズ最大の特徴だ、と松岡氏は語る。

市販車の製造ラインでレーシングカーが造られる

またカレラカップは、全く同じフォーマットでのレースが世界中で開催されているという点も魅力的だ。同じ車両、同じタイヤでワールドワイドに行うことによって、レーシングカーとしては異例の生産台数を確保できる。それだけではない。実はワンメイクレースで使用される911 GT3 Cupは、通常のポルシェの生産ラインと同じ場所で生み出されるという。

「実際にポルシェの工場に行くと分かるのですが、市販911 GT3生産ラインの先に、レース用の装備品を装着するラインがあります。そのような場所でCupカーは製造されています。」

一般的な市販車両をベースとしたワンメイクマシンの場合は、新車を専門のファクトリーまで輸送し、そこでレース用の安全装備等を装着することがほとんどだ。このため、通常部品の脱着といった作業が余分に必要となる。例え元が安価な車両であったとしても、レーシングカーはそれなりの金額になってしまうことが多い。それに対しポルシェのワンメイクレースカーは、市販車に非常に近い物を、市販車と同じ製造ラインで造ることで、車両の原価を下げているのだという。つまり、このカテゴリーは車両生産の時点からビジネスの一つとして組み込まれており、結果それがユーザーに参戦コスト低減等の形で還元されているのだ。

マーケティング戦略としてのカレラカップ

カレラカップがワンメイクシリーズとして成立している要因として、「誰かが一方的に負担して開催されているわけではない」点があると、松岡氏は言う。ポルシェジャパンはもちろん、ユーザーやポルシェ本社も負担をする流れの中で、各社スポンサーを含め様々な方々の協力によって、このカレラカップは成り立っている。

実際にPCCJを主催するポルシェジャパンは、Cupカーやパーツの販売利益、エントリーフィーだけではこのレースを賄えないため、市販車の販売利益も投入しているという。あくまでもポルシェの市販車の延長線上にカレラカップが存在している。ポルシェというブランドを育て、その根幹を確かなものとするために、レースを開催する。 そしてその投資は、市販車の販売促進という形で回収する。つまりカレラカップは、ポルシェのマーケティング戦略の一つでもあるのだ。

ところで、カレラカップ参戦ドライバーの実際の負担とはどれぐらいなのだろうか?これについて松岡氏は、「あくまでも人によるのですが」と前置きを入れながら説明してくれた。それによると、車両代金が新車で約2500万円、年間エントリーフィーが約400万円弱。そこにチームに支払うメンテナンス費用やタイヤ代が加わることで、ゼロからのスタートであれば年間約6000万円、車両を除くと年間約3000万円の参戦費用が必要、とのことだった。

ジェントルマンと若手ドライバーの両立

ポルシェ自体がハイブランドと化し、カレラカップの参戦費用も決して安価とは言えない昨今、カレラカップの問題点はジェントルマンドライバー比率の高さにあるという。しかし、ジェントルマンドライバーは所持金があるので継続参戦してくれる他、ゆっくりではあるが年齢と共にメンバーが入れ替わっていくはずだ。それでよいのではないだろうか?

「まず前提として、全世界のモータースポーツで、ジェントルマンドライバー無くしてビジネスが成り立つカテゴリーはありません。」

もしもメンバーが固定化されてしまうと、その場全体がマンネリ化、ひいては排他的なカレラカップ村が形成され、次第にカテゴリーは衰退していく。これでは継続的なシリーズ運営は不可能だ。レースカテゴリーは、ビジネスとしてジェントルマンを抑えておく一方で、コンテンツとしての魅力を保ち続ける必要がある。

ここでポイントとなるのが、若手のステップアップの場という立ち位置だと、松岡氏は説明する。例えば2012年にPCCJに参戦した平川亮選手は、現在ではSUPER GTやスーパーフォーミュラで活躍するトップドライバーへと成長した。このようにポルシェを通じてステップアップしたドライバーがいれば、「自分は有名ドライバーとレースをした」といった価値を、ジェントルマンドライバーが感じることができる。若手ドライバーは短期間で新陳代謝が行われるので、ジェントルマンドライバーにとっては常に新しい刺激となってくれる。

特に松岡氏がPCCJを担当するようになってからは、若手ドライバーの参戦を促すために「道筋を作ること」を強く意識しているという。曖昧なビジョンではなく、具体的なサポート行う。例えば今年ポルシェジャパンジュニアドライバーに選出されPCCJを戦っている笹原右京選手であれば、再びヨーロッパへ挑戦したいという欲求をサポートする。そのためには、ヨーロッパのカレラカップ参戦を実現するために、現地チームへドライバーを紹介する、などといった手段が考えられる。

このように若手とジェントルマン両方にとって魅力的なシリーズをマネジメントするためには、モータースポーツ全体の流れを知る必要がある。そのためポルシェジャパンでは、世界中の様々なモータースポーツカテゴリーの内側を観察し、それがどのようなビジネスモデルで成り立っているかを研究、同時に世界的な流れに対してシリーズをどう合わせていくかを常に考えているという。

実際にPCCJよりも上手くやっているシリーズはいくつかあるあるそうだが、カレラカップはあくまでもワンメイクシリーズという確固たるコンセプトがあり、かつポルシェ全体のヒエラルキーの中に組み込むという大前提が存在する。このため、ワンメイクの中でのカスタマーマネジメントをどのようにするか?を考える必要があるのだ。そこでPCCJがフォーマットにしているのが、ヨーロッパのF1と併催しているPorsche Mobil 1 Supercupであり、その世界観を全世界に広めているのがポルシェカレラカップだという。

ポルシェのブランド力によるエコシステムの機能

最後に、カレラカップに参戦するドライバーたちは、このレースのどのようなところに魅力を感じ、継続参戦をしているのかを聞いたところ、次のような返答をいただいた。

「それはおそらく、エコシステム全体がうまく機能しているためです。」

オーガナイザーがユーザーに提供できる部分はごく一部に過ぎない。もちろん、ポルシェだから安心してレースが出来る、といった土壌を整える役目は、オーガナイザーが最大限やっていかなければならない部分である。しかし、実際にユーザーが魅力を感じる部分は、エントラントの質であったり、そこに直接関わる人々に依存している。

様々な人が関わって、レース全体の良い環境を作ること、それを「エコシステム」とポルシェは呼称している。良質な顧客が集まり、エコシステムがうまく機能しているがゆえに、カレラカップが良いとユーザーが感じてくれているという。これは、ポルシェがこれまで長きにわたって培ってきたブランドイメージそのものが、良いユーザーやエントラントを集める土壌の一つとなっている、とも言えるのではないだろうか。

2019シーズンから718 Cayman GT4による新カテゴリーも誕生し、さらに盛り上がりを見せるポルシェワンメイクレース。ユーザーから愛される秘訣は、明確なブランドイメージの提示と、レーシングマシンの製造から始まる合理的なビジネスモデル、そして良質なユーザーを掴むための絶え間ない研究によるものであった。ポルシェのビジネスと合致しているこのシリーズが末永く続くことは、インタビューの後ではもはや疑いようがなかった。

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藤松 楽久

IGNITE編集長。レーシングカートでレースをしたり、愛車でサーキットを走ったりしています。

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